はい紅茶がはいったよ…おや?珍しくテーブルマナー本なんか読んでるけどどうしたんだい?
クリスマスにフランス料理を食べに行くことになったから勉強してる?なるほど、いいことだね。僕もそんなに詳しくないけど、ドレスコードのあるレンストランへ行くなら知っていた方が安心できるよ。映画の『プリティ・ウーマン』でも主人公の女性がすごく苦労して勉強してたけど、その努力する姿が素敵だったよね。
そういえばマナーのひとつに「食器で音を立てない」というのがあるよね。僕はあれを初めて聞いた時に「言われなくてもまあ当たり前かな」くらいの軽い同意だったんだけど、ある時に1枚5000円するお皿を買ったことがあるんだ。そのお皿で料理を食べた時に、ナイフやフォークで傷つけないように細心の注意を払って、「カチャリ」とでも音がしようものなら「しまった傷つけたかも!」と冷や汗をかいたものだった。
上流階級の人がお客さんを呼んで食事会をするときってさ、やっぱり良い食器を使うと思うんだよ。しかも昔は量産品なんてないから全部ハンドメイドの一品物。そんなときに「カチャ」とか「ギィー」とか音がしたらホストはさぞかし嫌な気持ちになっただろうね。音を出さないというマナーは、きっとここから生まれたに違いないよ。
あと食事時に音楽を演奏するというのも、音を目立たせなくさせるための工夫なのかも知れないね。静かだと音が響くし、ちょっとした音を気にしていたら食事を楽しめないしね。
ちなみに君に出したティーセットもちょっといいヤツなんだよ。心して飲んでくれたまえ。
テーブルマナーが必要な料理の筆頭はフランスのコース料理だけど、このマナーっていつぐらいにできたんだろうね?
もともとフランスにはナイフやフォークといったカトラリーを使う文化はなかったと言われている。固形のものは手づかみで食べて、液体は皿から直接すすって飲んでいたらしい。なかなか豪快だね。
それが1533年にイタリアの有名なメディチ家のカトリーヌがフランス王家に嫁いだことで変わったんだ。彼女はフランスへ行くときに自分の料理人や食器なんかも持ち込んで、その時に初めてフランスにカトラリーを使う文化が生まれたと言われている。カトラリーは元々イタリアで生まれたものなんだね。
さて、カトラリーが誕生する以前にも食事はしていたし、今と形は違うとはいえ当時なりのテーブルマナーは存在していただろう。そもそもマナーとは何故生まれたんんだろうって気になったことはない?
厳密にいつからかというのはわかっていないけど、根本にあるのは他人との区別だ。というのも、貴族という階級が誕生する前は全員が平民だった。その平民が戦争などで功績をあげたことで貴族が生まれたんだけど、この時代って貴族のなりすましが多かったらしいんだよね。昨日まで似た立場にいたのに突然「彼は今から貴族ね。君は平民」と区別されて、しかも貴族とやらは贅沢ができるらしい。自分だって戦ったのだから貴族を名乗る資格はあるはず…まあ、そんな考えがあったかどうかは知らないけど、自称貴族がたくさん出てきた。そこで王様が認めた正式な貴族にだけわかる符号の1つがテーブルマナーではないか…とどこかで読んだ本に書いてあったよ。本当かどうかは知らないよ?でも間違ってはいないような気がする。
区別というのは決して悪いことじゃない。現代でもほら、今の君みたいに高級なレストランに行くならテーブルマナーを知らなくちゃ、と思っている。レストランはそうやって「マナーを守ろう」とする人だけを区別して高級な空間を作っているんだ。君だってせっかく行ったレストランに酔っ払って陽気に騒ぐ人がいたら嫌だろう?
もちろん逆もそうだ。気軽な気分で居酒屋に行ったのにやたらとテーブルマナーにうるさい人がいたら興ざめしてしまう。マナーはその場所にいる人を不愉快にさせないための心配りだし、TPOに応じて使い分けるものだということがわかるよね。
さて、僕も紅茶を飲もうかな…ズズ
え?音を立てて飲むのはマナー違反だって?おっと確かにそうだ気をつけなくちゃ…ズ
まだダメ?まったく無音で飲むのは無理だよ。さすがに勘弁して!