プラスの感情、マイナスの感情

僕らはいつも、いろんな感情の渦の中にいる。この感情というやつを大別すると「プラス」と「マイナス」に分けられるよね。日常会話で使うかどうかはともかく、君も言葉としては知っているんじゃないかな?

でも、プラスとマイナスがあるんだったら「ゼロ」という基準がなくちゃ始まらない。じゃあ「ゼロの感情」って何だろう?不思議に思わないかい?

ん?「ゼロは無感情じゃないか」って?うん、なかなか良い答えだね。でもまだ曖昧さが残っている。できれば定量的に解決したい、というのが今回のお話なんだ。おそらく多くの人は、君と似たような考え方をしているんじゃないのかな。無感情というのは言葉が悪いけど、そうだなあ「平穏」と表現しようか。平穏な心の状態の時をゼロとして、それより嬉しい時はプラス、悲しい時はマイナス、という具合にね。

それで不都合があるのかと言われれば、別に何も無い。ただね、例えば明日から元気に仕事をしなくちゃいけないのに、ずっと何かを引きずって落ち込んだままだったりすると都合が悪いだろう?時間が解決してくれる事もあるけど、それを待っているほどの余裕も無いなんて時は、自分で努力しなくちゃいけない。そんな時は、対象が定量的であった方が扱いやすいんだよ。東洋医学と比べて西洋医学が世界的に広まったのも、西洋医学の方が対象をより定量的に扱っているからだよ。「心」のような非定量的な学問は、最近では話題になってるけど長らく認知されていなかったんだ。

さて、話を元に戻そうか。ゼロの感情の話だったよね。

僕はね、プラスの感情とマイナスの感情と呼ばれるものを幾つか、なるべく具体的にリストアップしてみたんだ。友達とケンカをした後の憂鬱な気分だとか、やりがいのある仕事を任されてワクワクしている感じだとか、まあ他にもいろいろ。すると面白い事に「明日が楽しみか、そうでないか」という風に分けられることがわかったんだ。

例えばそうだなあ、君は学生で、明日学校で苦手科目のテストがある。楽しみかな?

…聞くまでもないって顔してるね。

じゃあ、仲の良い友人と遊ぶ約束だったらどうかな?

もっと聞こうか。君はちょっといいなと思ってる人から愛の告白をされて、次の日曜日にデートの約束もした。しかし直前になって「もしデートをして嫌われたらどうしよう」と不安になる。当日着ていく服も決まらない。それは楽しみかな?

そんな不安を感じた事はないって?君はもうちょっと繊細という言葉の意味について調べた方が良い…いてて、ゴメンゴメンてば。髪の毛を引っ張らないでくれよ。

まあつまりだね、嬉しい事が待っているからと言って、必ずしも明日が楽しみとは限らないってことさ。デートはしたい、でももうちょっと考える時間が欲しい。時間が止まってくれれば…なんて考える人は世の中にゴマンといるはずさ…たぶんね。

時間というのは、日常生活を送っている限り一定で普遍的なものだよね。もちろん一部の物理の世界ではその限りではないけど、この話には関係ない。時間を止めたい、もしくは過去に戻りたいという欲求は、その時間の流れを止めようとする逆方向の力、つまりマイナスの力と考えることができる。この場合は、時間の流れる方向がプラス側で、力の働くポイントは時間軸に於ける現在、要するに今この瞬間ってことだよ。

ここまで考えればわかるよね?僕が言いたいのは、感情のゼロポイントというのは、時間の流れに身を任せた状態の、現在の自分自身だってことなんだ。そうすると、いろいろな事がすっきりと定量的に説明可能になる。

プラスの感情というのは時間を速く進めたいという欲求、マイナスの感情というのは時間を止めたい、戻したいという欲求。実際に戻りたいと思うかどうかはともかく、思考のベクトルが過去に向いていればマイナスという考え方だよ。だから「あの頃は楽しかったなあ」というのも当然マイナスの感情になる。

更に、感情がプラスであろうとマイナスであろうと、一般的に時間の流れるスピードは変わらないよね。にもかかわらず「早く明日になれ!」とか「もう一度昨日からやり直したい!」と強く思ってしまうと、それがストレスになってしまうんだ。だって、どんなに強く思っても、恐らくその願いが叶う事は無いからね。どっかの小説の主人公だったら15,498回くらい過去に戻れそうだけど、普通は無理だ。行き場をなくしたその強いエネルギーは、結局自分自身にフィードバックされてしまう。ストレスの存在を全否定するわけじゃないけど、そんなに沢山あっても困るからね。何事もほどほどが良いのさ。

まあ、感情のプラス、マイナスに時間軸を取り入れた解釈を行っただけで、これで何かが解決されるわけじゃないんだけど、自分が過度の感情に溺れそうになった時に、参考くらいにはなるんじゃないかな。そんなに簡単に感情をコントロールできたら苦労しないって思うかも知れないけど、それは間違いだよ。感情はコントロールできるものさ。

分かりやすい例をあげれば、誰かとケンカをして悪口を言っているうちに、だんだんと自分が抑えられなくなる、なんて事を経験した事ないかな?最初は冷静だったはずなのに、徐々にいろいろ腹立たしい思い出が蘇って…

これは、自分で自分をより怒らせる方向へコントロールしているからだよ。落ち込んでいる時や、嬉しい時なんかも、それを増長する方向へコントロールするのは容易いんだ。逆は難しいけどね。

どうだろう?少しは役に立った?

は?寝て起きれば嫌な事は全部忘れちゃうから、あんまり役に立たなかった?

常々思うのだけど、やはり君は繊細という言葉の意味を…いててて!